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面白い研究デザイン

※当記事は旧HP 2017年9月8日投稿記事です。

1.はじめに

オランダ北部の街、フローニンゲンを訪れました。

今回のお相手は、森井悠太さん。

森井さんのプロフィールは以下の通りです(詳細はWebsiteへ)。

森井悠太(もりいゆうた)さん、博士(生命科学)

所属・職1:北海道大学 大学院農学研究院 森林生態系管理学研究室・研究員所

属・職2:Arctic Centre, University of Groningen・Guest researcher

Website: https://yutamorii.wordpress.com

実は、筆者と森井さんは同大学に所属していることもあり、何度か面識がありました。調査遠征から戻られた直後にも関わらず、訪問を受け入れてくださった森井さんに、本当に感謝します。ありがとうございました。

今回は「面白い研究デザイン」と題して、これから研究をはじめる人や、研究をはじめて間もない人、若手の研究者のみなさんを主な対象に、森井さんとのお話を紹介しようと思います。

2.Spitsbergen島

北緯80°の世界。 様々な国の研究機関や研究者が集い、極寒環境での調査が行われている、

ノルウェー領土の島。6月中旬から8月中旬までが短い夏になります。

森井さんが到着した頃に雪が降り止み、島を出る約2ヶ月経過した日に雪が降り出すという辺境の土地。白夜が続くためか、気温も比較的安定した滞在生活だったそうです。この遠征からオランダに帰国した直後というタイミングで、今回お話を聞かせていただくことになりました。

森井さんの主な研究対象はカタツムリというイメージがあり、今回の調査もカタツムリに関連するのだろうと予想していました。ただ、どんな研究をしてきたのか想像するよりも、

そもそもスピッツベルゲン島のような場所に生息するのだろうか?と

素朴な疑問がありました。

そして残念ながら、今回の調査ではカタツムリを発見できなかったそうです。

どうしてスピッツベルゲン島のような場所でカタツムリを探したのでしょか。この理由が、今回の研究デザインの核心なのかもしれません。

なんとカタツムリは、「空を飛ぶ」ことができるそうです。鳥に捕食されたカタツムリは、生きたまま排泄される場合があります(Wada et al. 2012)。

すなわち、鳥を介して、カタツムリは長距離を移動できる可能性があるのです。スピッツベルゲン島に渡り鳥が多数飛来するということもあり、紹介していただいた研究が非常に興味深く感じられました。

またカタツムリ研究の本筋とは異なるかもしれませんが、スピッツベルゲン島での様々な経験を聞かせていただきました。北極域の調査では、シロクマに遭遇する危険があるため猟銃を常に携帯します。森井さん自身、実際に何度も見かけたそうです。また極域では、急激な冷却現象によって、植生が枯燥する前に花が凍ってしまうといいます。拠点の村は、鳥の雛がキツネに捕食される現地を何度も目撃するほど、生態系の姿を日頃から感じやすい環境だったそうです。

copyright: morii yuta

3.発見と発想

残念ながらカタツムリは発見できなかったものの、この遠征調査中に様々な発見があり、多くのアイディアが浮かんできたという森井さん。遠征調査のような、非日常的な刺激と、発見・アイディアが浮かぶということには何かしらの関係があるのではないかと、どこか期待混じりの疑問を抱きながら、さらにお話を聞かせてもらいました。

これまで森井さんは、北海道、中国、ロシア、ドイツ、そしてモンゴルなど、様々な野外に出向き、各地域内の複数のプロットでサンプリングするといった研究スタイルだったそうです。

加えて、今回の遠征では、滞在したオランンダの基地で、オランダ人をはじめ世界各国の研究者との交流を通じて様々な研究現地を実感できたといいます。

当然かもしれませんが、動植物の生き様を「現地」で感じ、そこから考えることは、何かを発見し、発想が浮かぶことと強く関係していると思います。

ここで、研究デザインすることを考えてみたいと思います。

どうすれば現地で様々な気づきや発見があり、どうすれば興味深い内容や魅力あるアイディアを思い浮かべることができるのでしょうか。

現地での発見やアイディアを思いつくためには、現地での調査経験経験を積むことが非常に重要であると、森井さんはいいます。

さらに、積み上げた経験や知見に基づいた予想を“超えた”、

あるいはそれらの予想から“外れた”結果や理論が発見できれば、

より一層面白いデザインとなるといいます。

言い換えれば、経験や知見に基づいた予想・発想した領域を明確化していないままだと、得られた結果が新しいのかどうか、面白いかどうかの判断が難しくなります。

積み上げた経験や知見に基づいた予想として、

どれほど仮説を考えられるのか。

これは、研究デザインの初期行程でありながら、最も重要な行程でもあります。そして、研究内容や仮説に新規性があり、面白いデザインができていないことには、その後の過程に費やす労力が単に浪費されてしまいます。

どうすれば新規性がある仮説を構築できるのか、

どうすれば面白いデザインができるのか、

この点についても森井さんからお話いただきました。

デザインしている研究内容や、検討している仮説を、指導教官や所属している研究室の間だけで熟成させると、研究分野の中での位置づけが十分に明確化できず、一般的に面白いのかどうかも分かりにくくなりがちです。練り上げた研究は“相談”することではじめて、分野の中での位置づけや面白さが相対化できると言います。相談する相手も、同じ研究室内に留まらず、自分の研究分野に所属する友人や、学会で繋がりができた親しい人など、日頃から自分の研究と距離があるような人とすることが大切だと、森井さんはいいます。

copyright: morii yuta

4.これからの若手の集い

森井さん自身、「みちのく進化生物セミナー」という公開セミナーを、3年間運営されてきたご経験があるそうです。そのなかで、発表はもちろん、セミナー後の懇親会でもお互いの研究デザインについて話す時間を心がけていたといいます。

このお話から、これからの「若手の集い」について、少し考えてみました。

全国大会が開催される際に、毎年開催している若手だけの懇親会では、自分の研究を比較的ためらうことなく、しかも日頃自分の研究と距離があるような人と相談できる、有意義な時間があると思います。

一方、自戒も込めた思いですが、自分の研究と距離があり、しかも初対面の人との雰囲気や、何も知らないような人から研究デザインを紹介されたとき、あまり深く立ち止まらず、軽い口調で面白いと反応してしまうときがあったかもしれません。

また逆も然りで、自分の研究紹介に対するリアクションに、あまり多くを期待しないこともあったかもしれません。若手の集いの懇親会に限らず、自分の研究を発信するとき、また受信するときには、こういったミスが生じやすいのかもしれません。

このままだと会話が発展・深掘りできず、研究の紹介がすぐに終わってしまいます。また、分からないことを、分からないままにしてしまうことも懸念されます。 一体何が面白いと感じたのか、どうして面白いのか、本当に面白いのか?といった点を、立ち止まって整理することは、いつも実践するのは難しいのかもしれませんが、大切だと思います。

また、話す側にも課題があるのかもしれません。

実際、研究している皆さんは、どれだけ面白く、自分の研究の話を紹介できるでしょうか。どれほど相手を引きつけられるのか、疑問や着眼点を浮き彫りにするのか、内容の理解を促すことができるのか、といった点は、話す側の「話し方」にも、大きく依存しているように思います。

copyright: morii yuta

5.おわりに

今回の内容は、既に研究を始めている方には当然の内容だったかもしれません。また、できるだけシンプルに記述したつもりですが、分かりにくい点があったかもしれません。少しでも、これから研究をはじめる人にとって、参考になれば幸いです。

また今後の若手の集い懇親会でも、参加者の皆様と、研究の話で盛り上がれたらと思います。最後に、改めて有意義なお話してくださり、お忙しいところ文章校正もしてくださった森井悠太さんに心から感謝します。

ありがとうございました。

引用・参考文献 ・ Wada S, Kawakami K and Chiba S, 2012. Snails can survive passage through a bird’s digestive system. Journal of Biogeography, 39: 69–73. doi:10.1111. ・ Morii Y, Prozorova L and Chiba S, 2016. Parallel evolution of passive and active defense in land snails. Scientific Reports, 6: 35600. doi: 10.1038.

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